COLUMN

クラフトブームはアメリカの大量消費社会を救えるか?

 

アメリカではここ数年クラフトブームの勢いが止まらない。

日本でもクラフトビールやクラフトチョコレートに馴染みがある人は多いと思うが、「小洒落てて、ちょっと高価で、こだわりが強いもの」のようなざっくりとしたイメージを抱いている人も多いのではないのだろうか?アメリカでクラフトと並行して用いられる”Artisan(アーティザン)”という言葉があるが、これは日本語の”職人”という言葉に相当する。

アメリカで生活していると頻繁に見かける言葉で、アーティザン・ブレッドとかアーティザン・アイスクリームを店名に謳う飲食店も多いが、クラフト又はアーティザンフードが注目されているのには「スーパー・サイズ・ミー」や「フード・インク」などアメリカの食品産業の裏側を暴露したドキュメンタリー映画や番組も増え、アメリカの大量消費社会に対する消費者の姿勢に変化が起きていることも大きく影響している。

クラフトブームはアメリカの食品産業における量産システムに今後どのような影響を与えるのだろうか?

クラフトフードとは?

クラフトやアーティザンというと新たな海外トレンドのような印象を受けるが、要は日本の職人文化と同義である。ビールやチョコレートといった外来品のイメージが先行しがちだが、地方の小規模酒造や味噌の醸造所などもれっきとした由緒ある国産のクラフトフードだ。明確な定義があるわけではないがクラフトフードのビジネス形態の特徴としては、

・少量生産
・作業を機械化せずに自らの手で行う
・素材にこだわる(地元産であることが多い)

の三点が重要なポイントになる。

ポートランドで有名なベーカリーの一つ「Ken’s Artisan Bakery」のオーナーであるKen Forkish氏は、アーティザン・ブレッドの基礎を著したレシピブック「Flour, Water, Salt, Yeast」で、飲食界のアカデミー賞とも呼ばれるジェームスビアード賞を受賞した経験もある、筋金入りのパン職人だ。ポートランドに住んでいた時、幸運なことに私のアパートはこのベーカリーから徒歩3分のところに位置していたので、オレゴンの酪農場ゴートチーズを使ったクロワッサンや、地元産の小麦の香ばしさと旨味がシンプルに味わえるバゲットに毎朝ありつくことができた。

工業化による大量生産・大量消費が目的のファストフードに対して、アーティザンの手作業によって少量生産で作り出される逸品がクラフトフードなのだ。

量産型から少量生産への転換

フォード社に代表されるような車の大量生産システムの流れは、大規模設備の工場で食品生産にも応用され、マクドナルドやケンタッキーなど飲食店のフランチャイズ事業に組み込まれるようになり「ファストフード」として外食の大量消費を可能にした。

クラフトフードの職人たちは単に良質でユニークな商品を提供するだけでなく、商品の生産過程に生じる様々な社会問題の解決をミッションとしている場合が多い。

例えば、東京・蔵前にも店舗を構えるサンフランシスコ発「ダンデライオンチョコレート」のようなクラフトチョコレートのブランドの大半は、「bean-to-bar(豆からバーへ)」というモットーを掲げている。

チョコレートの原材料であるカカオの生産農家はアフリカや南米に多いが、低賃金労働や児童労働などカカオ農家の劣悪な労働環境は社会問題にもなっている。チョコレートの世界的な需要だけを見るとカカオ農家にも莫大な利益が上がっているように思えるが、輸出されるカカオ豆はディーラーを仲介して取引されるため生産者による値決めが出来ない。生産者が自農家のカカオから作られるチョコレートの味を知らないなんてこともザラにあるので、カカオ豆の質を安定させることが難しいそうだ。

bean-to-barのチョコレート工房ではオーナー自らが現地の農家に直接出向いてカカオを選別し、カカオ豆を適切な価格で買取り、時には品質安定・向上のために生産農家に対する学習指導から行うこともある。大企業資本による大量生産のチョコレートは、その低コストの裏側に様々な社会問題が潜んでいる可能性があることを理解しておいてほしい。

アメリカでのクラフトブームの煽りを受けて、大手の日本企業が「クラフト◯◯」を名乗った商品展開をしているのをよく見かけるようになったが素材にこだわるだけがクラフトブームの本質ではない。企業側は大量生産への疑問提起や社会問題の解決といった背景に目を向けることが重要だし、消費者である私たちも「地元の職人や技術をサポートする」という意識を持たないとクラフトビジネスは成立しないのだ。

“Artisan” と”職人”

2011年にアメリカで公開された映画「二郎は鮨の夢を見る」は、言わずと知れた銀座の名店・すきやばし次郎の鮨職人である小野二郎氏の職人哲学に密着したドキュメンタリーだ。私はNetflixに英語字幕をつけて視聴したのだが、その中で印象的だったのは”職人”という日本語を”Artisan”とは訳さずに”Shokunin”という日本語読みをあえて使用していたことだった。映画の中でも描写があるように、鮨職人の修行は店の掃除と皿洗いに始まり、魚の仕込みを極め、そしてようやく卵焼きを焼かせてもらえるまでにかかる月日は10年と、途方もくれるような根性と忍耐が必要な仕事だ。健康のためにスムージーを毎朝作るという日課さえ、ブレンダーの後片付けが面倒くさいという理由で3日足らずで頓挫してしまうような私には到底耐えられない。

鮨に限らず焼き鳥や天ぷらなど和食の職人は長く過酷な修行を耐え忍ぶことで独特の職人哲学が形成され、気候などの外的要因から生ずる食材の微妙な変化を見極められるようになり、料理の質はもちろんそういった職人魂に対しても代金を支払うような感覚がある。

日本の老舗企業や飲食店の場合、大手資本との競争や後継者不足などの問題によって廃業が余儀なくされるケースも多発していて、伝統技術の継承が危ぶまれている。酒造技術にしろ食文化にしろ、日本には太古の昔から継承されてきた立派な「クラフトフード」に恵まれているのだから、アメリカでは大量消費を見直す形でクラフトブームが注目されているという本質的な部分を理解してほしい。

スポンサードリンク

スポンサードリンク

関連記事

  1. COLUMN

    ニューアメリカン料理とは?その定義と歴史背景を紹介

    ”ニューアメリカン料理”という料理ジャンルをご存知…

  2. COLUMN

    日本でコンブチャが流行らない理由と偽物コンブチャ

    2週間ほど前に自宅でコンブチャ醸造を始めた私。(詳しくはコチラ…

  3. COLUMN

    飲食店によくあるクレームの例

    前回の記事では、迷惑行為化する昨今の飲食業界におけ…

  4. COLUMN

    肉食の危険性を説法したがる「ゆるふわヴィーガン」達へ

    先日アメリカ在住の友人と電話で話していて、ヴィーガ…

  5. COLUMN

    日本女性こそ「完全食」に注目すべき理由

    「それだけ摂取してれば死なないサプリがあるなら食事なんてしなく…

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. BREAD

    梨とローズマリーのスコーン チーズ風味/レシピ
  2. COLUMN

    クラフトブームはアメリカの大量消費社会を救えるか?
  3. RECIPES

    ほうれん草の豆腐スプレッド/レシピ
  4. COLUMN

    日本でコンブチャが流行らない理由と偽物コンブチャ
  5. COLUMN

    ニューアメリカン料理とは?その定義と歴史背景を紹介
PAGE TOP